【年金制度改正法案が国会に提出されました】企業に与える今後の影響について

こんにちは、社会保険労務士の安生です。

5月16日に年金制度改正法案が提出されニュースでも報道がありました。
改正案については以下の内容について議論がされる予定です。

※参考:厚生労働省出典

今回は上記の中から企業に影響のある点について触れていきます。

目次

社会保険の加入対象の拡大

(1)社会保険の加入対象の拡大(企業規模要件の撤廃)

現行の制度においては、社会保険の加入者数51人以上の会社を対象として社会保険の適用(※)が適用されています。
※いわゆる短時間労働者の社会保険適用のこと

この適用拡大については昨年100人超から50人超に一気に拡大されたことから、近い将来社会保険の加入者数に関係なく適用対象になるのではないか?と考えられていましたが、今回の改正案では時間的猶予のある改正案となりました。

具体的には以下の通りです。

・2027年10月から 36人以上の会社が対象

・2029年10月から 21人以上の会社が対象

・2032年10月から 11人以上の会社が対象

・2035年10月から 10人以下の会社が対象

以上のように社会保険の摘要が全規模になるのは10年後ということになります。
とは言え2年ごとに適用範囲が拡大することに変わりはないので、自社の人数と対象となる時期を見極めて、その対策を練っておく必要があるといえます。

(2)賃金要件の撤廃

短時間労働者の社会保険適用要件としてこれまで給与が月額88,000円以上の方が対象とされていました。
(いわゆる106万円の壁)
これについてはいきなり撤廃というわけではなく、全国の最低賃金の引き上げの状況を見極めながら3年以内の廃止を目指すとあります。

上記の点から改正案が成立し、法改正が施行されると週20時間以上働く人は全員社会保険加入が義務付けられることになります。

(3)個人事業の社会保険適用

現行の制度では個人で行う事業は社員が5人未満であれば社会保険の適用対象外となります。
ただし、例外として一定の業種(※)については5人以上になっても適用対象外とされています。
※農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業等

今回の法改正案において2029年10月からこの例外的な措置を撤廃する方向となりました。

ただし、激変緩和措置として、「2029年10月時点で既に存在している事業所については当面の間対象外とする」という案も盛り込まれました。

(4)社会保険適用拡大によるコストアップへの支援策

社会保険適用拡大の対象になって短時間労働者が社会保険に加入することになった場合、短時間社員にとっては手取りが減り、会社にとってはコストが増えることになります。

これに対する国の支援策として、「労働者の保険料を会社が追加で負担した場合、3年間限定で事業主の追加負担分を国が補助する」という案が出されました。

あくまでも会社が労働者の負担を肩代わりした分を支援してくれるだけなので、会社としてのコストアップは変わりませんし、労働者への支援も限定的な支援ですので、いずれ負担が発生することには注意が必要です。

また、会社側のコストアップへの支援策も検討しているようですが、そちらの方は具体的な内容は発表されていないので、今後注視したい点です。

在職老齢年金の見直し

給与と老齢厚生年金の合計金額が一定の額を超える労働者は年金が一部支給停止されるという制度があります。
これを在職老齢年金制度と言います。

今回の改正案では年金の支給停止基準が現行の50万円から62万円になることが検討されています。(2026年4月からを予定)

この改正によって年金をもらいながらでも安心して働ける環境を整え、高齢者層の就労意欲を維持して働いてもらおうというのが趣旨であると言われています。

今後在職老齢年金の対象になる方は月の収入が62万以上もらっている方となりますので、かなりの高収入の方に向けての改正です。

果たしてこれによって高齢者の就労意欲が上がるのかと言われると疑問は残りますね。

厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ

保険料の算定や年金額の計算に使う標準報酬月額の上限が今後段階的に引き上げられます。
現行の制度では上限は65万円ですが、具体的には以下のように引き上げれる予定です。

・2027年9月から上限68万円

・2028年9月から上限71万円

・2029年9月から上限75万円

上限が上がると年金は増えますが、保険料も上がるわけなので、労働者・会社共に負担は大きくなります。

まとめ

今回は企業に影響のある年金改正案について触れてみました。

これらの法案は今後の国会審議によって内容が変更される可能性もありますが、社会保障制度の維持の為、今後も改正が増えていくと考えています。

貴社の状況において影響のある改正については情報をキャッチアップして頂けたらと思いますので、今後も影響のある情報を発信していきます。

また今回触れた改正以外の内容について知りたい方は以下の資料をご参照下さい。

参考:厚生労働省出典
社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案の概要

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